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16日目

始末書
しーくん 殿
カクリッヒ・アツミハルト

私ことアツミハルトは、しーくん様より先日頂いたチョコを投げ上げて紛失いたしましたのでお侘び致します。
その後の探索結果、アセイ様とおっしゃる方にて拾得された事まで確認致しましたが
事実上回収する事が不可能で御座います。
重大な問題のミスでもあり、衷心よりお詫び申し上げます。
注意力と落ち着きの欠如からなる散漫でして、釈明の余地は残されておりません。
重大な過失をひきおこしたことを此処に深く反省し、お詫びいたします。
以後は確認作業を十二分に行って、今後、二度とこのような過誤を再発させない覚悟です。
なにとぞ御容赦くださいませ。


「よし、完璧。」
「馬鹿もーん!!」
ガツン☆
カクの後頭部を山査子の枝が襲った。
「な、何するんですかスケさんっ;」
「何をしてるんだお前こそ!」
「先日のチョコ紛失に関する始末書を作製していました。」
真顔で答える。手にはまるで見本の様な模範的ビジネス文書。
「会社の業務かっ!普通に行って謝って来い!」
「直接は…ちょっと問題があるんですよねぇ。」
カクは困った顔で視線を落とした。
「なんだよ」
「実は……弱いんですよ、ああ云うタイプ。彼女に賠償請求されたら、私の技量では断れないと思うので…」
「へぇ〜」
カクから深雪以外の女性のタイプの話が出るとは思わなかったスケは、ちょっとニヤニヤしながら話の続きを聞いた。
「あれで毛足がモコモコ長かったらもっと良いですよね♪」
ザクッ☆
カクの眉間を山査子が襲った。
「な、何するんですかスケさんっ;」
「何言ってんだお前はっ!」
「何がですかぁ;可愛いじゃないですかっ!」
「可愛いの使いどころがおかしいって言ってんだ!」
「可愛くないって言うんですか、失礼なっ」
「失礼はお前だぁッ!」

この後、更に3、4回の攻撃と、熾烈な口撃を受け、結局直接謝罪に向かう事となった。
自分がチョコを貰えなかったから気が立っていたんだろう、と後にカクは分析している。

「ふー、ただいま戻りましたー」
カクがふらふらと帰り着くと、スケは山査子を突き出した。
びくりと身をすくめる。
もう殴られるような事はしていないはずだが…
「悪い悪い。怒りのあまり渡すの忘れてたぜ。で、ちゃんと謝ってきたんだろうな?」
「あ、はい。」
山査子を受取りながらカクは頷いた。
「うん、なら良し」
機嫌を直して、スケは鼻歌混じりに山査子が空いた分の荷物の整頓を始める。
「あ、しまった…fioretto(*1)か」
荷物から取り出した手帳のカレンダーを見て呟いた。
日付の感覚がおかしい事の弊害がこんな所で出てくるとは…
「お、どうしたのじゃ、デートの約束でも忘れていたか?」
「うっかりうっかり!」
「だまれこの草団子!」
「会長、スケさんが女性との約束を忘れるなどと言う事は、ありえません。」
「…。」
「何か別の事ですよね?」
「カク、気の使い方を完全に間違えてるぞ。」
「?」
カクは不思議そうに首を傾げていた。
ハチとご隠居は嬉しそうにこっちを見ている。
「まあいいか。いや、今年の復活祭は3月23日だなーと思ってな。」
スケは手帳を閉じ、ため息をつく。
「今年は随分早いですね。」
「仕事休んでカルネヴァーレ(*2)に帰ろうと思ってたんだが、それすらもし損ねた。」
し損ねたと言うか、どうにもならない状況になっている訳だが。
「フィレンツェのパレードは派手じゃからのう。」
以前からあちこち旅しているミツクニスが、懐かしそうに目を細める。
「あまり知られてないかもしれませんが、ドイツのカーネヴァルも楽しいですよ。ファッシングって呼んでますけど」
「そうなのか?」
「各人が思いつく限り『妙な』格好をしてパレードするんです。熊の着ぐるみとか。」
カクの説明に、二人はカクを見たまま一瞬固まった。
「日頃真面目なだけに壊れるとどうなることやらのう…。」
「…ちょっと想像つかないなぁ。」
その後もあれやこれやと復活祭話で盛り上がるミツクニスとカクを尻目に
スケはエプロンをつけながら宣言する。
「ま、というわけで、四旬節だ。料理はしばらく質素になりますよっと。」
「えー!!!これ以上質素ですか?!」
「ブーブー」
「がっかりがっかり!」
文句をいう二人+αを放置し、スケは竈についた。
背中に恨めしそうな視線が突き刺さる…
スケはやれやれと言った風に肩をすくめる。
「ビールは無制限だしホットクロスパンも出しますよ。」
歓声が上がった。
単純だな…まったく。
「しかし、スケさんが四旬節の節制を言い出すなんて、意外でした。」
「ふむ、たまに頑固なところがあるからのう。」
聞かせたいのだか聞かせたくないのだか分からない大きさの声で評価がなされる。
色々あんだよ、こっちにも。
程なくしてカクもご隠居も自分の作業に入ったようだ。
肉を使わずに献立を考えるこっちの身にもなれってんだ…。
ま、俺一人食わなきゃいい話なんだが、別皿を用意するのは面倒だし。


…こんな些細な事でも、やってれば願いに近づけるかなって、な。


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注釈
(*1)フィオレット、と読みます。四旬節(クアレージマ)の間、節制する事です。
  元々は肉、卵、乳製品の摂取は禁止、一日一食ですが、現代はそこまでやらない事が多いです。

(*2)カーニバル   「春分の日の後の最初の満月の次の日曜日」が復活祭(イースター)
  それまでの40日間が四旬節(クアレージマ)
  その前の約一週間が謝肉祭(カーニバル)
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今日のメニュー

スケ:
質素な保存食 を料理し、 ホットクロスパン(オレンジ) をつくりました。
「さわやかな風味だな」

カク:
質素な保存食 を料理してもらい、 ホットクロスパン(アップル) を受け取りました。
「だいぶ甘く仕上げたぞ」

会長:
おにく20 を料理してもらい、 ホットクロスパン(ベーコン) を受け取りました。
「カクには内緒ですよ。」

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