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 ■■ お花屋探偵みゆきちゃん(解決編) ■■ ※問題編を先にお読みください
「とまあそういうわけでして」
シャッターの下りた花屋の店内。
花束を作る時に使うテーブルに、コーヒーのカップが二つ置かれていた。
一つを取り、渇いた喉を潤すカク。
彼は丁寧に時間をかけてこの日あったことを深雪に説明し、今それを終えたところだった。
もう一つのカップは深雪のものである。
入口近くの壁にもたれたスケはカップをずっと手に持っている。
「なるほどね」
深雪はうんうんと二度ほど大きく頷いた。
「あの……何か、わかりましたか?」
すっかり眉を下げてお手上げ気味のカクが尋ねる。
「うーん、大体ね。後はどうまとめるかだけど……」
深雪はまた上を向いて少し考え始めた。
そして、カレンダーに目を止めて、ぱっと二人の方に向き直る。
「ねね、スケさん」
「何だい?」
「田町紀子さんの病状ってわかる?」
「ああ、今日聞いたよ」
「いつの間にですか?!」
「紀子さんと別れてからだよ。看護師のお嬢さんに聞いた」
驚くカク。
深雪は驚きもせずコーヒーを飲んでいる。
「入院したのは十日ほど前。胃潰瘍を悪化させて診察即入院のコースだったそうだ。順調に回復中で、明日には退院だとさ」
「明日退院!」
その情報に、今度は深雪も驚いた。
「じゃあちょっと急がないと……二人にはそれぞれお願いすることがあるんだけどいいかな?」
「勿論」
「ええ、それは構いませんが……」
不安げなカクに、深雪は笑顔を見せることで答える。
それから深雪は、スケにはある人を連れて病院に行くように、カクにはあるものを持って明日病院に行くように指示を出した。
スケは早速その人物のところへ赴き、カクは深雪が準備し始めたそれを見て、ますます不安げな表情を見せる。
「あの……本当にこれで大丈夫なんですか?」
「大丈夫。この花束で、カクさんもそれから多分スケさんも田町さん親子も全員の誤解が解けるはずだから」


そして翌朝。
カクは自分の自転車で例の病院に向かった。
ちなみにカクの仕事は、昨日の夜の内に会長から出張承認メールが届いているので問題ない。
きっとスケさんが手をまわしたんだな、と、思う。
それから荷物入れの籠の中に入れてある真っ赤な花束をちらと眺め、人生何事も経験だと小さく頷いた。
病院の駐輪場に着いた時、真っ赤なアルファロメオから、スケともう一人少年が降りて来るのが見えた。
空いていたスペースに自転車を停めると、スケもこちらに気づいたらしくカクが来るのを手をあげて待っていた。
「お早うございます」
「お早う」
「彼が?」
「ああ。田町アルフレッド君だ」
カクはスケの横に立つ少年に手を差し出しながら英語で挨拶をすると、少年は直ぐにその手を握った。
『私はカクリッヒ・アツミハルト。カクと呼んで下さい』
『カク、こんにちは。僕はフレッドと』
カクはもう一度よく少年の顔を見る。
歳の割にがっしりした肩、金髪に青い目。
その特徴は紀子から聞いていたとおりだったが、後半は正直予想していなかった。
ああそれで、私に似ているとおっしゃっていたのか。
紀子に言われた言葉を思い出し、一人納得する。
「さ、紀子さんを迎えに行こうぜ」
「じゃあこれを、フレッド君に」
カクは抱えていた花束を、フレッドに渡す。
フレッドは昨日カクが深雪に見せていたのと同じ表情をして、その花束を見ていた。
『え、これを渡すの?』
『そうです。驚くでしょう?理由は後で説明しますよ』
『わかったよ』

病院のロビーは今日も見舞客や外来患者、様々な人でいっぱいだった。
三人は空いた長椅子に陣取り、紀子が出て来るのを待った。
椅子に座ってから15分ほどしたころ、小さい鞄を一つと新聞でくるんだ何か長いものを抱えた紀子が姿を現した。
「退院おめでとうございます、田町さん」
スケが早速紀子のそばに歩み寄った。
「息子さんもお迎えに来てますよ」
「あら……フレッド」
先程までの元気はどこへ行ったのだろうか、フレッドは俯いたまま、黙って手を出した。
どうしたらいいのか分からない、といった表情の紀子。
そんな彼女の耳に、ようやく届いた小さな声は『バッグ』という単語だった。
紀子は持っていた鞄をそっと渡す。
フレッドは鞄を受け取り、うん、と頷いた。
二人の様子を見て、スケがちょうどその間に立つ。
「紀子さん。フレッドが言いたいことがあるそうです。俺が通訳しますね……さ、ほら」
スケに小突かれて、フレッドは大きく深呼吸すると、勢い良く喋り始めた。
『僕、少しショックだったんだ。母の日の花のプレゼント、あまり喜んでくれなかったから、
 てっきり嫌われているんだと思ったんだ』
「母の日の?」
紀子は驚いて、菊の花とフレッドの顔を交互に見る。
「この、菊の花が?」
『そうだよ。僕が父さんの温室を借りて育てたんだ。母の日に渡そうと思って』
二人の様子を見て、カクが一歩歩み寄る。
「田町さん。半年前に結婚されたお相手の方とフレッド君は、オーストラリアの方なんですよね?」
スケはそのカクの言葉を英語にしてフレッドに聞かせる。
二人はほぼ同時に頷いた。
「実は、オーストラリアでは母の日に菊の花を贈るのが一般的なんです」
これを聞いて紀子は驚き、フレッドは当たり前だ、と言うように頷く。
「日本と季節が逆になっているオーストラリアでは、5月が菊のシーズン。フレッド君は新しいお母さんとの距離を縮めるきっかけになればと温室でこっそり栽培していたそうです」
驚きの表情のままフレッドの顔を見つめる紀子。
「しかし、日本では菊の花には、お供えとして使われる花、という一面があり、あまり他人に贈るべきものではありません」
今度驚くのはフレッドの番だった。
『本当なの?』
「そうだよ。そして、日本で母の日に贈る花と言えば……」
『まさか、このカーネーション?!』
フレッドが、持っていたカーネーションの花束をまじまじと見つめる。
紀子はにっこりと微笑んでいる。
その様子に気づいたフレッドは、おずおずと紀子にカーネーションの花束を渡した。
『この花で、喜んでくれるの?』
「ええ、勿論。とっても嬉しいわ、ありがとう、フレッド」
カーネーションと菊を両手で抱えた紀子は、嬉しそうにしていたが、うかない様子のフレッドに少し不思議そうな様子も見せていた。
「どうしたの?」
『ん?いや……』
「田町さん、これは我々も驚いたことなんですが」
カクは正直に前置きしてから説明を続けた
「日本で母の日に贈られるこのカーネーション、実は結構多くの外国で、いわゆる仏花として扱われているんです」
「あら」
「私の国ドイツでは、葬儀に用いる花、もしくは労働者を表す花として捉えられています」
「イタリアでのカーネーションは、ある政党のシンボルマークとして有名だ。ちなみに母の日に贈るポピュラーな花はアザレアというツツジの一種だよ」
『もちろん、オーストラリアでもそうさ。病院に居る人にカーネーションなんて、考えもしなかった』
それを聞き、紀子は菊とカーネーションとフレッドの顔を順に眺めた。
「そうだったの……私、あなたの思いやりを台無しにしてしまったのね、ごめんなさい、フレッド」
『いいんだ!いいんだよ!』
フレッドはぶんぶんと首を振って言った。
『僕こそ、菊の花のことを知らなくて……驚かせて嫌な気持ちにさせてしまったんだね、ごめんなさい。それから……』
フレッドはそこまで言って、もう一度下を向く。
スケが優しく背を叩くと、うん、と頷いたフレッドは言葉を続けた。
『退院おめでとう。きっと、僕のことでストレスが重なって病気になったんだと思う……僕、急に家族だよって言われて、正直戸惑っていたんだ。でも、きちんと整理も出来て、ちゃんと言えるようになったから言います』
スケの通訳を待って、フレッドは最後に紀子の方を見た。
「オカアサン、ヨロシク」
「フレッド……」
紀子の瞳から、涙がこぼれる。
「ごめんなさい、私こそあなたの言葉が分からなくて、あなたの気持ちも分からなくて……」
ハンカチで目元をぬぐって、それからフレッドの方を優しく見つめる。
「お父さんは日本語が堪能だから、私、あなたも話せるものだと思っていたの。でもあなたは英語しか話せなくて、私はもちろん日本語だけ。お父さんは急な出張で長く家にいなくて。つらい思いをさせてしまったのね、本当にごめんなさい、フレッド」
紀子はフレッドを抱きしめた。
カーネーションと菊と一緒に抱きしめた。
フレッドは泣きながら、覚えたばかりの「お母さん」という日本語をずっと繰り返していた。


「というわけで、深雪さんのおかげで万事解決、となりました」
「いやー、まだまだカルチャーショックってのはどこにでもあるもんだ」
その日の夕刻。
スケとカクは揃って深雪の勤める花屋にやってきていた。
「お役に立てて何よりです」
作業が一段落した深雪は、二人に向かっていつもの笑顔を見せる。
「しかし、田町さんの結婚相手って、オーストラリア人だと思う……なんて急に言われた時は、びっくりしたよ」
「でも実際その推理が的中していたわけですからね。さすが深雪さんです」
「そんなに持ち上げないで。答えは全部花が教えてくれただけだから」
照れたように笑う深雪。
スケはにこりとして、深雪に尋ねた。
「それじゃあもう一個だけ謎ときだ。昨日深雪ちゃん、俺に言ったよな、多分フレッド君はすごく優しい子だから、スケさんも優しく接してねって。まあコレも当たってたわけだけど、どうして分かったんだい?」
「うーんと、それは……」
深雪は少し困ったような顔をした。
「半分は勘で、半分は希望、かな。一応根拠もあるけど」
「それはどんな?」
「あくまで想像なんだけど、昨日カクさんは、温室の中で足元のプレートを見ようとして屈み込んだのよね」
深雪の言葉に、その時の様子を思い出していたカクは、間違いありませんと頷いた。
「それを温室の外からたまたま見たフレッド君は、カクさんが一酸化炭素中毒で倒れ込んだんだって
 勘違いしたんじゃないかしら」
スケは深雪の言葉に、ほう、と漏らした
「その温室、ガソリン発電機に繋がったライトとかを使っていたのよね。残念だけどそういった温室での一酸化炭素中毒事件って、結構多いの」
「あの温室は発電機も外に出ていましたし、大丈夫だったのでは?」
「だろうけど、でもフレッド君は最悪の事態を想定して、すぐに温室のドアをあけたのよね。自分は鼻と口を塞いですぐ中に入って来なかったのもきっとそのせいだと思うわ」
「なーるほどな。で、カクが意外とピンピンしてたから、今度は逆に俺たちが何者か分からないことに気がついて、家の中に逃げたってことか」
「中学生の判断であれば実に賢明です。暴漢と推察される人物に近寄る必要性はまったくありません」
「だからね、まだ慣れない異国の地で、新しいお母さんに花を育ててあげられて、温室で誰かが倒れたらすぐに助けに行けて……そんな子はきっと優しいいい子なんじゃないかなって、思ったの」
スケとカクは十分納得したようだった。
「ん、それじゃあ今日は帰ろうかな」
深雪は一つ、大きく背伸びをしてから、机の上に置いていた小さな花を手に取った。
フィルムの中に1本だけ巻かれたその花は赤い花びらをいくつも広げた立派なサルビアだった。
「お、セージ」
「うん、今年初めてのが入ったんだ」
「そうかー、もう夏かー」
「サルビア、<家族愛>の花。今日にぴったりの素敵な花ですね」
カクのこの一言に、スケと深雪は驚いてカクの顔を見る。
「カクお前、花言葉とか分かるのか?」
「失敬な。有名な花くらいはわかります」
「ごめん、カクさん、ちょっと驚いちゃった」
二人の視線を受けながら、カクは思う。
……深雪さんと親しくなるために、調べたからですなんて、言えないな……

〜終〜

  
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オマケ
もしくは、早瀬の相棒自慢話
3月のある日のこと、
わたしは、このざっくりとした絵を身内のみ公開中のスペースに投下いたしました。

「誰かかいてください」

落描きコーナーに入れるようなこのざっくりとした絵。
数日後、コメントが付いていました
「しかたないな…」(武野踊)
「やったー!言ってみるもんだ!!w」(早瀬淳)

そしてそんなやり取りも流れ去り
4コマ本の原稿をやったりやらなかったりしていた5月のある日。
メッセンジャーで…

踊「やー」
早「やー」
踊「お花屋探偵みゆきちゃん。6〜7割書けたが」
早「なぬw」
踊「途中まで読むか/全部出来てから読むか」

職人め!w
とりあえず問題編をもらって、考えたけど解けなかったよ!!w

そして無事完成したら、坂木司の日常謎解き小説好きな早瀬を狙ったような、すげえイイ話になってた。
なにこれあったかい。踊ちゃん愛してる!

しかもまぁ、適当に描いたこと部分部分で盛り込んであるなぁ、すげえ!
つまりあれだ、三題噺扱いだったんだな。

そんな職人宛てのファンレターはこちら! 現PTブログ・八名でも六命

内容関係なくても最新の記事のコメントに「武野踊」宛てで書けば、PMの誰かが発見すると思うよ!

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