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 ■■ 邂逅ランチタイム(深雪の場合) ■■
偽善…いや、うぬぼれ?…何だろう。
何かとにかく変なモノが自分の中で渦巻いている。
それに気付いてしまったのも嫌だが
今まで気付かなかったという事も嫌だ
凄く、落ち着かない…

「深雪ちゃん;リボンリボン!」
「へ?」
店長の声で私は我に帰った。
手元には通常の五倍はあろうかというリボン飾りが出来ていた。
「あちゃー;すみません、ちょっとボーっとしてて」
へらへらと笑って、リボンをほどく。店長は溜息をついて私を見た。
「ちょっと早いけど、昼休みにしていいよ。気分転換しておいで。」
「え、でも…」
「いいからいいから」
半ば追い出されるように、私は昼休憩に出た。
まぁ仕方ないか。今日の午前中は、水こぼして、鉢植え倒して、レジ詰まらせて…
帰れって言われないだけマシね。
とは言え、お昼にはまだだいぶ早い。気分転換とか言われても…何処に行こう。
とりあえず私は近くの公園に向かった。
オフィス街の中にある小さな神社と公園。
一時間もするとお弁当を持ったOLさん達がやって来るのだろうけど、この時間だとまだ誰もいない。
私はベンチに腰掛け、空を見上げた。いい天気ー。抜けるような青い空。
…青い…
そうだ丁度こんな色だ…あの人の目は…

昨日は出掛けに見た星占いが、12星座中1番ラッキーだったから少し浮かれてたのかもしれない。
『思いきって行動すると良い結果が!』とか、密かに真に受けてたんだろうか。
とにかく私は、気になっていた事を口に出してしまった。

「アツミハルトさんは…花はあまりお好きではないんですか?」
出来あがった花束を渡し、代金を受け取りながら、私は尋ねた。
「え、花…ですか?」
私の突然の問いに、彼は戸惑ったようだった。唐突過ぎたかと思い、慌てて付け足す。
「いえ、あの。いつもここにいらっしゃった時って、険しい表情をしているので、もしかして、と…」
そうなのだ。
すぐそばの会社で会長秘書をしているアツミハルトさんは、
頻繁に花束などを買いに来てくれるのだが、いつも硬い表情をしている。

花が嫌いだと云う人に会うと、自分が嫌われたように悲しくなる。
お客様には笑顔で花を持って帰って欲しい、と思う。
だから、一生懸命考えて、少しでも喜んでもらえるように花束を作っているのだけれど…

「あー…花が嫌い、ではないです。…が…が?」
いつも流暢な日本語が、珍しくたどたどしい。
上手い日本語が見つからないのか、言いにくい内容なのか。
やっぱり聞かない方が良かったかしら;
私が質問を撤回しようと、いつも通り書いた領収書を差し出しかけた時
「険しい表情をしているように見えるのであれば…それは…」
「それは…?」
領収書を持ったまま思わず合いの手を入れる。
「それは、あなたがい…」
「カクくん。まだかしら?」
彼の言葉を遮るように、店の入口から女の人の声がした。
「あっ。ゆみさん!」
「いらっしゃ…」
「ああ、いいんですのよ。カクを迎えに来ただけですから。」
接客に向かおうとする私をやんわりと制止し、微笑む。
うわ。同性でも見惚れるほどの美人。ハーフかな?背も高いし、スタイルも良いし、服装も豪華…
「カクくん、早く出発しないと遅れてしまうわよ。」
「す、すみません!今すぐに!」
「あ、これ!」
慌てて領収書を渡す。彼は立ち止まって振りかえってそれを受け取った。真面目だなァ。
いつも通り、硬い表情で頭を下げ…顔を上げると、困ったような目で私を見た。
「ごめんなさい、質問が途中で…」
「いえいえ!それより、どうぞ急いで…」
何だか知らないけれど、遅れそうだと言うのだから、私は彼を送り出した。
店の前には、名前は知らないけれど高そうな外車が停まっていて、二人はそれに乗って去っていった。
「ふー、やれやれ。」
突然のバタバタを乗り越えた私は、大きく伸びをして時計を見た。
そろそろ閉店準備かな。
店先に並べた鉢植えをしまいながら、ふと思い出した。
『カクくん』とか呼んでたなぁ。親しいんだ…。
デートかしら…。
あー駄目駄目、お客様のプライバシーには立ち入らない立ち入らない。

あれ?

その前…私の質問になんて答えようとしてた…?
確か『あなたがい』…って。

…いるから…?私が居るから?
がつっ☆
「たっ?!」
自分で移動させた鉢につまづいた。床で膝を打つ。痛い;
私が…いるから…
「ごめんごめん、渋滞にまきこまれてねー」
店長の声がした。配達から帰ってきたんだ。
あぁ、そうだ。
私は立ちあがり、膝の汚れを拭った。
「店長…アツミハルトさん、接客した事有ります?」
「え。ああ、あの人か。あるよー。」
「…いつも、怒ったような顔してますよね…」
「そうかい?結構愛想良く挨拶して帰るけどなぁ。」
…愛想良いんだ…店長には。
誰に対してでもあの態度なのかも、と思ったけれど
私が、原因だったんだ…

電車を降りて、いつものスーパーに入る。
夕飯のおかずを考えようと、冷蔵庫の中の物を思い出している内になんだか面倒になった。
お惣菜コーナーでお弁当を選んで、レジに向かう。
ふとレジの手前にあるお酒コーナーで足が止まった。派手な色の大きなPOPが目に入る。
ふーん、新製品か…最近飲んで無いな…
POPに騙され、缶を一つカゴに入れた。

「ふー、さっぱりした。」
アパートに帰り、お弁当を食べ、シャワーを浴び、冷蔵庫で冷やしておいたビールを取り出す。
しまった、おつまみ買って無いや…んー、味付海苔でいいか。
テレビをつけて、ビールを開ける。
ぐびぐび、パリパリ、ちびちび、パリパリ…
いつも見ているお笑い番組にお気に入りの芸人さんが出ている。
なのに
内容が頭に入ってこない…どうも面白くない…

私、何か悪い事したんだろうか…
うるさく話し掛けすぎた?わかりにくい日本語使った?
あ!あれかしら…外国だと失礼になるようなジェスチャーとかしたのかも!


それにしたって『いるから』ってのはひどいわよね
普通、思ってても言う?
礼儀正しい人なんだけどなー。
やっぱりアレ?外国の人ってそう云うこともズバッと言うのかしら


でも、間抜けな話よねー
花が嫌いだって言われると自分が嫌われた気になる、なーんて
自分が嫌われてるんじゃどうしようもないわよねー
花の所為にしようとして、何様よ私は〜


だいたい、あんなきれいなカノジョがいるなんてさぁ
ひとことぐらい言ってくれればいいじゃない?
毎回毎回領収書きってたけど、ほんとは…私用なんじゃ…ふぁぁあ…ないの…


んー


ん?
ん?
うあ、やだ朝っ…

そして私は軽い二日酔いの頭をかかえ、出勤して、
あらゆるドジをこなしたわけで…
そうだ、二日酔いしてたんだ。頭の中でグルグルしてるのはそれね。
缶一本で二日酔いなんて…あの新商品のビールがいけないんだわ。うん。
コンビニでドリンク剤でも買ってスッキリしよっ!
ベンチから立ちあがった私は
その場で固まった…
「あ…み、深雪さんっ?」
公園の前の道に背広の上着を脇に抱え、汗だくになったアツミハルトさんが居た。
ええっ;なんでなんで?どんなタイミングよ!どうしたらいいんだろうー;とりあえず
「こ、こんにちは…」
「こんにちは。すみません深雪さん、今お時間よろしいですか?」
え?えーと…この場合、向こうから話しかけてきたんだし…
「はい。何か…?」
「この住所、おわかりになりますか?」
差し出されたのは、お蕎麦屋さんの出前メニュー。
あ、知ってる。美味しいのと高いのと場所がわかりにくいので有名な所だ。
「わかります。花の配達に行ったことがあります。」
「すみません、もしよろしければ、そこへ連れて行って頂けませんか?」
そういうことか。まぁ暇だし…お得意様だし…
「いいですよ。こっちです。」
そういって私は進む方向を指した。
きっと『これで多少でも印象が良くなるかな』と心の底で思っているに違いない。私は。
イヤな子だ…

「あそこです。」
ビルとビルの間の細い路地にある看板を指した私の隣で彼は首をかしげた。
「…どこですか?」
えーと…スナックの看板とかも多いからわかりにくいのよねー。
あ、違う。そうじゃないわ。
「こっちです。」
私は先に立って路地に入った。そして崩し字で書かれた看板を直接示した。
「これ、『志乃田』って字なんです。」
「え…これが…」
看板を見て唸る。そうよね。日本人でも結構読めないからねぇ。
気を取り直したのか、顔を上げて暖簾の向こうの引き戸に手を伸ば…あれ?止まった。
「あの…これはどういう意味ですか?」
申し訳なさそうに私の顔を覗きこんでくる。止まった手の先には…ああ、それね。
『春夏冬中』
「これは簡単に言うと『営業中』です。」
「『春夏冬』で『えいぎょう』…ですか?」
「えーとそうじゃなくて…」
どこから説明しようかと思考を巡らせていると、不意に中から戸が開いた。
「何だ何だ、店の前で!」
店主と思われる怖そうなオジさんが中から出てきた。
うきゃ!しまった;怒られるー;
「お?あんた確か…ミトさんとこの。」
「こんにちは。」
内心慌てる私を尻目に中から出てきた人物は彼と話し始めた。
「出前をお願いしたかったのですが電話が繋がらなくて。」
「あー、悪いねぇ。故障して交換してるとこだったんだよ。ま、こんな所じゃなんだ。中へ入りな。」
えーと…私はどうしたら良いんだろう…帰って良いのかしら?
「深雪さん、お時間まだ大丈夫でしょうか?」
「え。ええ、はい。」
声をかけられ、そちらに視線をやると、暖簾の前で彼が強張った表情で私を見下ろしていた。
う。何かしら;
「よろしければ案内して頂いた御礼に、昼食をご馳走したいのですが。いかがですか?」
「へ?」
唐突な申し出に、間の抜けた声をあげてしまった。
「あ、いえ。お礼なんてそんなのいいです!大した事じゃ有りませんし、それに…」
私がいていいんですか?…流石にそれは言わずに飲み込む。
うっ!?
「駄目ですか…?」
しょんぼりしてる!何で?え?ちょっと待って…だって、お礼にって、社交辞令じゃないの?
「私がお誘いしては、深雪さんにとってご迷惑ですか?」
はううっ!やめてそのお約束な『捨てられた子犬のような瞳(かなり大型犬だけど)』!頭の中がグルグルするぅ;
「め、迷惑じゃないです!全然無いです!だから!だから…」
その身長で、その金髪で、その青い目で、その顔立ちで、
「そんな顔…しないで下さい…」
かろうじて声にはなったと思う。
もうなんだか顔は熱いし、心臓はドキドキするし、酸素が足りない感じだし、
わかった。わかったから止まって、私;
そう思いながら、私はうっかり視線を彼に戻してしまった。
わかりきってるのに、お約束なのに、彼の行動も自分の反応もわかるはずなのに、うっかり見てしまった。
「ありがとうございます♪」
安心した、嬉しそうな、初めて見た彼の笑顔…。

今、この瞬間、私は思った。
言葉や慣習の違いとか彼女とか自分のレベルとか相手の気持ちとか全部無視して
後戻りできないほど
この人を好きになってしまった。と

…どうしよう

促されるまま店内に入り、席に着いて、彼が出前を注文するのを聞いている
が、
どうしよう;
全部わかってしまった…自分の気持ちが。

ずっと、笑わない人だなぁと思っていた。
他はすごく素敵なのに。
礼儀正しいし、会長秘書なんてエリートだし、背も高いし、金髪碧眼で顔も整っていて…
それに、優しい。
私用で話した事は無いけれど、花を買う時の相手への細やかな気配りや、待っている間の態度でなんとなくわかる。
でも…
笑わない人。

頭の奥の方では最初からわかっていたんだと思う。
もし笑ったら、私はきっとこの人を好きになる。
だからこそ、今まで何も言わなかった。
エリートで高身長でイイ男なんて高嶺の花過ぎる!
会社とか母国に彼女がいるに違いない!
好きにならない方が平和だわ!

でも、やっぱり気になって、気になって…口に出した途端…
状況は最悪の展開;
凄い美人の彼女は居るし、なんだか嫌われてるらしい事が判明するし、そのくせ…笑ってくれちゃうし
…どうしよう

「どうしますか?」
「どうしましょ…え?」
目の前では彼がニコニコしてお品書きを差し出している。ああ、注文どうするか、ね。
ううう;笑顔が眩しくて直視できない;
「お、オススメでお願いします…」
「そうですか?では、あたたかいのと冷たいのとどちらにしますか?」
「冷たいの、で。」
体温上がっちゃってるしね;
「天せいろはどうですか?」
「それでお願いします。」
「お酒とおつまみはどうしますか?」
…え?
「いえ。食事だけで…お昼ですし…」
「そうですか?遠慮なさらずにどうぞ。」
「いえ、本当に」
昼間から呑む人なんだ。ふーん、意外。
結局、天せいろ2つと蕎麦ビールに鶏わさが注文された。

「昨日はすみませんでした。弓が失礼しまして…」
ビールと鶏わさが置かれたテーブルの向こうで、申し訳なさそうに頭を下げている。
「ゆみ?」
「ええ、話の途中で割って入ってくるなんて。取引先のパーティに遅れそうだからといって、誉められた行為ではありません。」
ああ、昨日の凄く綺麗な人。仕事だったのか…なんだ…
「それとですね…途中になってしまった話ですけれど」
言い辛そうに視線を漂わせる。ああ、その話はもうこれ以上…
「すいません。自分では笑ってるつもりでいたのですが…その、どうしても緊張してしまって…」
話を打ち切るタイミングを探していた私と、正面から目が合った。うわぁ…やっぱり空色だ。
直視できない…と思ったけれど、今度は反対に目を離せない。動かせない。
「す、すいません…ちょっと待っ…」
彼が耐えきれず視線を外して、うつむいた。同時に私の呪縛も解ける。
あー、びっくりした;どうしようかと思っちゃった。
やだ、顔が熱い…///;
小さく深呼吸をして、呼吸を整える。と、テーブルの向こうでも耳まで真っ赤になって同じ動きをしていた。
あれ?
「すいません、本当に…;あなたがいると…どうしても、つまり…情緒が制御できなくて…」
あれ?何だか思っていたのとちょっと違うような…あれ?
「深雪さん…あの」
「はい?」
「天せいろお待たせしましたー。」
ガギギィッ☆
椅子が引きずられた音が響く。
テーブルの向こうでは、椅子から落ちそうになりながら天せいろを睨んでいた。
「た、食べましょうか。」
さっき何か言いかけていたのが気になったけど、彼に促されたので、お蕎麦を食べる。
わ。美味しい。お蕎麦の香りが、強過ぎず弱過ぎず。
天ぷらも揚がり具合も良いし、それぞれの衣の歯ごたえの違いもたまらない…。

「ごちそう様でした。」
「ご馳走様でした。」
おいしかったー。結局上手く糸口が掴めず、食べ物の事以外話して無いけれど…。
そういえば、外国人は蕎麦をすすれないと聞いた事が有るけど、ちゃんと食べていたなぁ。
あ、そういえば『春夏冬中』の事も説明し忘れちゃった。あ、『ニ升五合』も飾ってあるわ。
レジの脇でボーっと考えていると、ふと会計の合計金額が目に入った。
高ッ?!

「あ、あの、私、自分の分出しますっ;」
店を出てから、私は財布を取り出す。
「これはお礼ですから、深雪さんは払わなくて良いんです。」
「いえ、道案内しただけであんなに高いものおごってもらったら申し訳ないです;」
お札を引き出そうとした私の手が、上から軽く止められた。
「大丈夫です。金銭的損害を回避できた相応の報酬ですよ。」
はい?
「つまり、出前が間に合わなかったら会長が機嫌を損ねて、給料や賞与が減ります。それを回避出来たのですから、道案内の効果は大きいです。」
うーん、そう理詰めで言われると…んー…
「じゃあ、今度は私がお誘いします。えっと、今日、暇で仕方なかった昼休みを回避させてもらいましたから。」
「いや、それは…」
「私がお誘いしたら迷惑ですか?」
勝った!
何にと言われると困るけれど、自分の台詞で私は勝利を確信した。

「じゃあ、またお店に行った時に相談の続きをしましょう。」
「はい、お待ちしています。」
店と会社の間の交差点で、そう約束してそれぞれの仕事場へと分かれた。

具体性は無いけれど
また会う為の約束っていうのは、嬉しいな。
えへ♪

午後は楽しく仕事が出来そうだわ。
抜けるような青い空を見上げ、私は大きく伸びをした。

〜終〜
  
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