その時、天を貫く巨大な赤い塔が出現し、塔から声が響き渡った。
”破壊の契約が成立 破壊対象 エルタ・ブレイアからの脱出口”
「…は?」
状況を理解するのに時間の余裕は無かった。すぐに別の声が響いたからだ。
”みんなご苦労さま。現象の終着は僕が果たした。聞いた通り、エルタ・ブレイアからの脱出口を破壊させてもらったよ。”
俺達はその声で全てを無理やり理解させられる事になった。
要約するとこんな事だった。

脱出口を破壊された事によって、この地のマナは供給されることも消滅する事も無く一定量だけ存在する。
我々はエルタから抜け出すことができない。
マナを持つ者は不老不死、マナを持たない者は普通に老い、普通に死ぬ。
次の現象である80年後まで脱出口は作れない。
声の主は、今最もマナを所持している存在。そして次の現象に備えて、引き続きマナを回収する意思が有る。

つまり…そいつは作り出したんだ。
長い戦争を。生と死の取引…弱肉強食の世界
80年間のバトルロイヤルを…



…とは言え
「俺には関係無いけどね。」

俺の目的は男に戻る事。男に戻って今まで通りの民俗学研究の生活を送る事。
別に、80年後まで不老不死ですごして、生きている必要は無い。
寿命通り生きて行ければそれでいい。

もっとも、元に戻る方法の解明の段階で戦う事も有るだろうけど…

とりあえず俺は
はぐれてしまったいつもの皆を探した。
レッズはすぐに見つかった。と言うか、さっき思いっきり攻撃された。
いや、俺もしちゃったんだけど。
相手を確認するより先に攻撃しかけなきゃいけない世の中ってのも辛いな。
しかも今後はそれに一層拍車がかかる…

ミーちゃんは死神の本業とやらで、少し離れた場所に居た。
再殺がどうとか言っていたけれど、成功か失敗かはその口から出てこなかった。
ただ、なんとなく寂しそうな笑みを浮かべ、近づく俺達に小さく手を振る。

「で、ガオくんは?」
「それが見つからなくてさぁ」
俺達は最後に一緒に居た場所まで戻ることにした。道すがら先ほどの声について確認しあう。
「じゃ、そっちにも聞こえたんだ」
「ええ。全体に響いたんじゃ無いかしら」
幸いというか何というか…
エルタ・ブレイアからの脱出口が無くなった事自体に関しては誰も気に留めていなかった。
マナが無くなれば普通に死ぬと言う事は、地獄には繋がっているということらしい。
レッズは実家に行くのに脱出口は要らない。
俺も独り身、別に帰る所は決まっていない。
まだ見つからないガオも同じ様なもんだろう。…しかし、どこへ行ったんだろうなぁ…

そして、ガオと合流できないまま夜を迎える。

「腹減ったー」
「何か獣でも獲るか」
「あ、噂をすれば…」
茂みから狼のような獣がこちらをにらんで…
「!」
その口に一体の人形がくわえられているのを見た瞬間、三人が同時に動いた。
瞬殺…
一秒経ったか経たないかの内に、その場には夕飯の材料と人形状態のガオが転がっていた。
俺は人形を拾い上げ、ホコリを払う。その感触にガオと初めて出会った時の事が思い出された。
マナ切れか。放って置けばその内周りからマナを吸収して戻るだろうけど…
供給の絶たれた今の状況では少々怪しい。少しわけてやるか…
旅の途中で覚えたマナの移動を試みる。大量には移動できないけど、少しなら…

しかし、それは失敗に終わった。マナがガオに入って行かないのだ。
試しにレッズやミーちゃんにマナを移動させると上手く行く…方法が悪いわけではないようだ。
とりあえずしばらく待って見ることにした。
初めて会った時は、確か二日かかったはずだから、まぁ倍見ておけば…

「何だよ!どう言う事なんだよ!!」
一週間経ってレッズがついに叫んだ。
あれからガオは人形のまま…その間に様々な事を試した。…試し尽くした。
「ヴァリー、何か次の方法無いのか?」
思いつく事はすべてやった。ストック教授達とも相談した。正直、もう…
俺はその考えを振り払うように頭を振った。
「量…多分、マナの量が足りないんだ…きっと…もう少しマナを」
つぶやく俺の肩にそっと白い手が置かれた。
振り向くと暗い表情のミーちゃんと目が合う。
彼女は部下達の研修も終わり地獄に帰った。
もうココに来る必要も無いのだが、俺達の事を気にかけてちょくちょく顔を出してくれる
「…分かってるんでしょ?本当は…」
静かなその言葉に、俺は反論できなかった。
マナの問題では無い…あらゆる事象がそれを示していた。かといって他の原因も浮き上がってこない。
「ガオくんの魂…って言うのかな。良くわかんないんだけど…
 とにかく彼は人間とは違った魂を持っていたわ。どちらかと言えばエキュオスに近い。
 今は…それが全く感じられないもの…つまり」
俺の言えなかった一言を彼女は静かに…静かにつぶやく。
「もう…ただの人形なんでしょ…?」
無言の肯定が…周囲を包んだ。

無茶を言い出したのは例によって「バカ」だった。
「新しい命を作ってやればいいんだろ?」
…;
簡単に言うな。人工生命の製造は困難なんてモンじゃない。
生命の生成を禁忌としている学問も多い。研究過程での犠牲があまりにも多いかららしいが。
少なくとも
「成功した話は聞かないな。」
呆れすらも含まないほど無感情に言い放つ。
大体上手く行ったとしても
「同じ魂かどうか…」
ミーちゃんも予想がついているらしく、同じ様な事を…
「…は、こっちで探してみるわ。」
「え?」
ぱっと見、普通の女の子にしか見えない死神がにっこり微笑む。
「もうちょっと昇進したら、その辺もチェックできるようになるのよ。」
どうやら地獄の死神の地位はそういうシステムらしい。え、それってつまり…
「生命の方はよろしくね」
…えぇっ?!

「無茶だろ?」
「無茶ですね…」
お茶をすすりながらストマリ教授と言葉を交わす。
「でも、探すんですね。」
「まぁ、ついでだし…」
男に戻る方法を探す旅に、人工生命を生成すると言う第二の目的が増えたに過ぎない。
そう思うことにした。
そうで無いと踏み出せない気がした。
「とにかく、そんな感じの予定だ。そっちの組とは別行動が長くなると思うから…」
「分かりました。何か情報があればこちらでも調べておきます。」
「ああ、お願いします。じゃ、レッズが待ってるんで。」
「お気をつけて。」


こうして俺達の新たな旅が始まった。
○年後、あんな事が起こるとも知らずに…






To be continued…?

女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理